第ニ部 第十一章


少しずつ登りになって来た。そしてゆるやかだがカーブも増えて来た。

『峠に近付いてきてるぞ』

そう感じ始めたジローのハンドルを握る手には自然に力が入るのであった。 大きなカーブを曲がっている時、チラッと横を見るとユキナ達の村が見渡せた。

「ジロー兄ちゃーん!戻ってきてー!」

というユキナの声が聞こえたような気がした。

 

幾つかのカーブを過ぎ、わりあい真直ぐな道になった。山の峰が切れている。

『峠だ!』

道路に視線を戻したジローが急ブレーキをかけて止まった。

「ミュウウウウウ!」

フォルテが毛を逆立ててうなっている。

「なっ、なんだあれは!」

100メートル程先から道路が真っ黒ではないか。

「うっ、ウソだろ!あれって、ぜんぶベシ?」

300。いや500匹を越えるかもしれない小型、大型入り交じったベシの大群であっ た。全てのベシがあの「ペーーン」という叫びがジローとフォルテには通用しないと判っ ているのだろうか、一匹も叫び声を発しないでこちらを睨んでいる。

 

バイクの音だけが響く不思議な静寂の中、100メートルの距離を置いてジロー達とベシの群れが睨み合ったまま時間が凍り付いた。

「あの大群を蹴散らして果たして峠を越えられるんだろうか?」

「今までせいぜい10匹くらいとしか闘っていないのに。それだって結構大変だった のに」

「しかし行かなければ時間の問題で村は全滅してしまう」

「ユキナちゃん、コーダさん、オブリさん、マルカさん、、、、、、」

「全速力で走り抜けるしかない!バランス崩して転倒しなきゃいいが、、、」

「フオオオオッ!」

フォルテがベシの群れの奥を睨んでまたうなり声をあげた。 ジローも目を凝らした。

「人だ!誰か居る!」

何百というベシの群れの真ん中に人間が一人立っているではないか。 ジローの方を見て笑っているようだ。

「くそっ、あいつか!」

「あいつがベシ達をコントロールしていたのか!」

ジローはバイクを50メートル程進めて止めた。ベシにガッチリと回りを固めさせているそいつの顔もはっきり見えるようになった。まだ若そうだ。頭にアンテナが何本も突き出た一見王冠のようにも見えるものを被っている。

「誰だ!お前は!」

ジローが叫んだ。

「俺の名はソリチュだ!天才ソリチュ様だあ!」

「この盆地で起こっている出来事はお前がやったのか!」

「当たり前だろ、おれ以外に誰がこんな事が出来る。俺はこの盆地内全ての重力制御装置を無力に出来る。ベシだって思うように動かせる。こいつを使ってな。」

と言って頭に着けた王冠のようなものを指差した。

「どうしてそんな事するんだ!どうしてなんの罪も無い村の人達をおおぜい殺すんだ!」

「フン、どいつもこいつも俺を避けやがる。俺の凄すぎる才能に恐れをなしてな!」

距離はあってもその尋常ではない眼の光をジローは感じ取ることが出来た。

「俺を怒らせたらどうなるか、フン、思い知っただろう。みんな俺の言うなりになるのだ!しかしお前のようなやつが居たとはな。どうして平気なんだお前は?どこから来た?まあ関係ないか、お前も直ぐに終わりだ!」

冷たく光るその眼を見て、ゾッとしたジローだが

「こいつをやっつけなきゃ終われない。いくらでも犠牲者が増えていく!」

再び空ぶかしを3度。ジローは頭の中が真っ白になっていくのを感じていた。

「いっけえーー!うおおおおお!」

「ミュウウウウウー!」

 

ソリチュとの間に立ちはだかるベシの黒い壁にむかって突っ込んでいったジローとフォルテであった。

 

 

第二部 第十二章に続く


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