第ニ部 第三章
ベッドに腰掛け、少しだけ赤かった左足の小指が何事も無かったようにすっかり元の色に戻っているのを眺めながら
「そういえば小さい頃からわりと傷が早く治るほうだったかも。勿論こんなとんでもない早さじゃ無かったけど」
と昔を思い返していた。
「もしかしたら、ユキナちゃん達の世界へ行き来すると、その人が持ってる何かの特徴が極端に増大されるって言うか、強調されるようになるのでは?」
ジローはどの程度の傷がどれくらいの早さで治るのか、勿論まだ把握してはいなかったが
「ううん、この事も秘密にしておかないと、へたすると実験材料にされたり、回りの人には気味悪がられちゃうかもなあ。そうだ、知り合いの前で怪我しないように気をつけなくちゃ」
ジローはフォルテを顔の前に持ち上げ
「おいフォルテ、誰か人が見てる時はあのスピードで動いちゃ駄目だぞ!ゆっくり歩くんだ、ゆっくりな」
「ミュウ?」
ジローは大学を中退し、いろんな職種のバイトをやりながら小説を書いていた。今は高田馬場にあるレストランでキッチンヘルパーをしているのだが、店が内装工事の為2週間休みになった。その間を利用してフォルテと旅に出たのだが、ユキナ達の世界へ行ってしまうという、とんでもない事になってしまったのだ。運良く無事に元の世界に戻ってこれたのだが。
休みはあと1週間残っている。
「そうだよ、又とない小説の材料だよ。忘れないうちに書き残しておかなくちゃ」
フォルテとの朝食を済ましたジローはすぐに机に向かい、出発の日を思い出しながら書き始めるのだった。
夢中になって書いていたせいだろう、あっという間に2日が経ってしまった。その夜も真夜中の2時を過ぎていたが、ジローはまだ書き続けていた。机の隅っこでうとうとしていたフォルテが
「ビクッ!」
として目を覚まし
「ミュ!」
と鳴くと、玄関へすっ飛んで行った。
「どうしたフォルテ、外に何か居るのか?」
「ミュウ、ミュウ」
「こんな時間にか?」
と言いながらジローも玄関の近くへ行って耳を澄ましてみた。アパートの階段を誰かがゆっくり上がって来る足音が聞こえた。そしてジローの部屋の前で足音が止まった。
「ミュウ、ミュウ」
とフォルテが鳴くとドアの向こうから
「フォルテ?」
聞き覚えのある声にジローはギョッとした。
「まさか!そんな、、、」
急いでドアを開けた。
「ジロー兄ちゃん!」
ユキナが立っていた。
第ニ部 第四章へ続く