第ニ部 第八章
「ユキナちゃん!窓の方へ追い詰めよう!」
「うん!」
ジローが左へ回り込もうとした時、食品庫のドアの前に集まっていたベシ5匹が逆にバラバラっと広がりジローとユキナを取り囲んでしまった。小型ベシに比べ動きが格段に速い。
「ジロー兄ちゃん!」
「くそ!こいつら頭いい。気を付けてユキナちゃん!」
ジローとユキナは自然に背中合わせになって身構える。叫び声を発しても通用しないと悟ったベシとしばらく睨み合いになった。そこへフォルテに両目を引っ掻かれ方向が判らなくなった1匹が取り囲んでいたベシ達の1匹に後ろから
「ドン」
とぶつかった。
それがキッカケになって、残りのベシがジローとユキナに突進し、いきなりの乱戦になった。
「くそ!動きが速いから、椅子じゃ防ぐだけでダメージを与えられない!」
「キャ!」
足に体当たりされユキナが転んだ。
「クッ!」
何とかユキナを助け起こし壁際に移動した。
「よし!これで後ろからやられない!」
フォルテに両目をやられた2匹目のベシがフラフラッとキッチンに迷い込みガシャーンとテーブルをひっくり返した。そのはずみかテーブルの上に置いてあった70センチはあろうという特大のスリコギのようなものが転がってきた。ジローはその手前に居たベシに持っていた椅子を投げ付け、そいつが横へ飛び退いた隙にスリコギに飛びついた。立ち上がろうとした時
「ジロー兄ちゃん!うしろ!」
「ビチッ」
という音と共に右太ももに強烈な痛みが走った。
「クソ!吸い付かれたか」
「キャア!」
また転倒したユキナの足にベシが吸い付こうとしている。
「フォルテ!」
次の瞬間そいつの鼻先にフォルテが噛み付いていた。必死で立ち上がったジローは自分の足に吸い付いているベシの頭部に特大スリコギを振り降ろした。
「ギイッ」
奇妙な声を上げて床に転がった。気絶したようだ。急いでユキナの傍に駆け寄るとフォルテが噛み付いているベシのケツをおもいっきりぶっ叩いた。
「ギイーッ!」
そいつは戦意をなくし窓を必死によじ登り外へ逃げ出して行った。
「よし!ユキナちゃん!玄関開けて追い出そう!」
「うん!」
突進してくるベシを防ぎながらジリジリと玄関に近付くユキナをジローが右に左に特大スリコギを振り回して援護する。
「ビチッ」
ジローの左ふくらはぎに又ベシが吸い付いた。
「クソッ!」
足を振り回しベシを柱にぶつけて無理矢理引き剥がした。吸い付かれていた部分の皮が破れ血が吹き出した。しかし数秒で血が止まり傷もみるみる治っていく。
「バーン」
とユキナが玄関を開け、そのまま外へ転がり出た。直ぐ後ろからジローに思いっきり叩かれたベシが逃げ出して行った。さらにフォルテに片目をやられたやつも逃げて行った。残るは2匹だがひるむ気配は全く無い。それぞれジローとフォルテに突進して来る。ジローは動きの速いベシをわざと吸い付かせた。
「そうやってりゃ狙いやすいんだ!」
ボカッと頭を叩き気絶させた。吸い付かれた傷はあっと言う間に治っていく。残った1匹もフォルテにやはり片目をやられ逃げ出して行った。
「ユキナちゃん!大丈夫?」
「うん!ジロー兄ちゃんは?フォルテは?」
「こっちは大丈夫」
フォルテに目をやられ、まだ中でウロウロしていた2匹を追い出し、気絶している3匹の口と足をガムテープでしっかり固定した。
「これで意識が戻ってもあの声を出せないぞ」
その間にユキナが食料庫のドアを開け中に入る。
「お爺ちゃん、お婆ちゃん」
硬直から解けた二人がうめき声を出した。
「ウウッ、ユッ、ユキナか?」
「うん!大丈夫?」
「ああ、もう動けるようになったわ。ベシはどうした?」
ユキナが二人を連れてリビングに出て来た。
「おお、ジローさん!フォルテ!」
「ミュウ」
「アハッ、また来ちゃいました」
「きゃあ!ベシが」
セーニョが床に横たわっている3匹のベシを見つけて叫んだ。
「あっ、心配いらないですよ。しっかり口と足を固定しましたから」
「いやあ、またまた危ないところを助けて頂き、ありがとう、ジロー君」
「いえ、まだ安全じゃないですよ。この家は窓が壊されちゃったし、又襲われたら防げるかどうか?」
「ああ、オブリが言うように窓にシャッターを付けるべきじゃった。どうもわしゃあシャッターが嫌いでな」
「ユキナ、あなたベシの声平気だったの?」
「うん、あっちの世界へ行って帰って来たら平気になったの」
「まあ!でもよく追い払えたわねえ」
「ジロー兄ちゃんとフォルテが凄いんだよ!見せてあげたかったよお」
皆は近くにベシが居るんじゃないかと、辺りを伺いながら庭のバイクの所に来た。
「シャッターのある、オブリさんの家に向かいたいんですが何かこういうタイヤみたいのが付いていてお二人が乗っかれるような物無いですか?」
「さあて、そんな物はなあ?」
ユキナが
「お爺ちゃん、裏の倉庫の奥に何かあるような気がするんだけど、、」
「倉庫の奥じゃと?ふーーむ」
「ユキナちゃんが言うんじゃ必ず有ります。行ってみましょう」
急いで倉庫へ行き奥の方を探してみると、大きめの平たい箱が見つかった。
「この中だと思うよ」
その箱に入っていたのは台車のような物だった。
「おお!こりゃあいい」
「ははあ、こりゃワシのじいさんが骨董品屋で見つけてきた物じゃ。油をさしゃあ使えるじゃろ」
「よし!コーダさんロープありますか?」
庭に戻りバイクでその台車を牽引できるように繋いだ。道路に出し、コーダとセーニョを台車に乗せ、オブリの家に向かってバイクを発進させたジローであった。
第ニ部 第九章に続く