第ニ部 第十章
コーダの家に向かってバイクを走らせながら、ジローは不思議な気分をあじわっていた。何故かベシも全く姿を見せなくなっていたし、勿論村の人達は厳重に戸締まりをして誰一人外へは出て来ない。シーンと静まりかえった村で唯一動いているのは、全く異なる世界からやって来た自分とフォルテを乗せたバイクだけであった。
「不思議な運命だよな。どうして僕がこんな見知らぬ世界であんなモグラの化け物みたいなやつと闘ってるんだろう?これからどうなっちゃうんだろう?」
「ジロー兄ちゃん、ジロー兄ちゃん!」
突然左手首のデンテからユキナの声が聞こえた。
「どうしたの?ユキナちゃん!何か起こったの?」
「こっちは大丈夫だけど、ユキナ、何だか恐いの!ジロー兄ちゃん、やっぱり峠に行くのやめて帰っておいでよお!」
ほとんど予知能力と言っても良い程の勘の持ち主であるユキナの言葉だ。一瞬ジローも動揺したが
「アハッ、ありがとう心配してくれて。でもこのままじゃ食料が尽きて全員餓死するだけだよ。何とかしなくちゃ。フォルテも付いてるし、大丈夫!」
「でも、ジロー兄ちゃん、、、、」
「よし、コーダさんの家が見えて来たぞ。じゃあね」
コーダの家に入り、床に口と両足をガムテープで固定され横たわっていたベシを抱えてバイクへ運ぼうとするが意識の戻っているベシは激しく身体を動かし抵抗する。
「これじゃバイクに縛り付けるの大変だ」
そう言うとベシを床に投げ出し近くに転がっていたあのスリコギを手にした。
「ゆっくり寝てな」
そう言うとジローはスリコギを振り降ろした。
「ボカッ!」
再び気絶したベシをバイクまで運びロープでリアシートに括り付ける。頭の部分がシートから少しはみ出して下向きになった時、小さな耳の付け根にキラッと光るものが見えた。
「うん?なんだ?」
ジローは顔を近付けた。
「なんだこれ?」
明らかに小さな金属が埋め込まれている。驚いたジローは反対側の耳の後ろをチェックした。
「こっちにも!」
全く同じ物が埋め込まれている。
ジローは家の中に駆け込むと手足を縛った、他の2匹をチェックしてみた。
「クソッ!なんてこった」
やはり同じ物が埋め込まれていた。
「隣の村じゃたくさんの人が犠牲になったそうだが、誰かがこいつらをコントロールして、、、」
バイクを峠に向かって走らせながらジローは怒りよりも驚きを感じていた。
「こんなに誰もが穏やかで幸せそうに見えるこの世界にこんな事をする人間が居るなんて」
バイクはマーケットの前を通り過ぎた。
「三つ目の交差点を右折だったな」
しばらくして三つ目の交差点に到着したジローは右折した所でバイクを止めた。あとは真直ぐ行けば峠だ。
「フウーーッ」
一度大きく息を吐いた。ただならぬジローの緊張を感じ取ったフォルテがデイパックから出て来て肩に移った。
「ミュウ?」
「あのユキナちゃんが言うんだから峠の危険度は結構なもんだぞフォルテ」
「ミュ」
ジローの顔を見ていたフォルテがキッと前方を睨むと
「ミュウウッ」
と大きな声で鳴いた。
「フウーーッ。ジロー、覚悟を決めろ!」
自分に向かってそう叫ぶと、3度空ブカシをし、ギアを入れ、峠に向かって発進した。
シーーンと静まりかえった村にジローとフォルテを乗せたバイクの音と雄叫びだけが響き渡った。
「ウオオオオオッ!」
「ミュウウウウッ!」
第ニ部 第十一章に続く